この記事のポイント

海外移住を検討する富裕層・起業家にとって、出国税(国外転出時課税)は最初に確認すべき制度です。金融資産1億円以上を保有する方が日本を出国する場合、含み益に対して15.315%が課税されます。本記事では国税庁タックスアンサー(令和7年4月1日現在法令等)に基づき、対象者、計算方法、納税猶予制度を解説します。


国外転出時課税制度とは

国外転出時課税制度(いわゆる「出国税」)は、2015年(平成27年)7月1日に施行された制度です。一定の金融資産を有する日本の居住者が国外転出(日本の居住者でなくなること)する場合、保有する有価証券等を国外転出日に時価で売却したものとみなして、含み益に対する所得税が課税されます。

実際に売却しなくても課税される点が最大の特徴です。ただし、納税猶予制度が設けられています。


対象者の要件

出国税の対象となるには、以下の 2つの条件を両方 満たす必要があります。

条件①:金融資産の合計額が1億円以上

国外転出日時点で保有する有価証券等の時価合計が1億円以上であることです。上場・非上場を問わず、全ての有価証券が対象です。

条件②:出国前10年以内に5年超日本に居住

国外転出前の10年以内に、合計5年超にわたり日本に住所または居所を有していたことです。2023年改正で、この期間が従来の「5年以内」から「10年以内」に延長されました。

つまり、金融資産が1億円未満の方、または日本での居住期間が短い外国人は対象外です。


対象となる金融資産

出国税の対象資産は以下の4種類です。

有価証券 として、上場株式、非上場株式、公社債、投資信託、ETF等が含まれます。上場・非上場を問わず対象となる点に注意が必要です。

匿名組合契約の出資持分 として、事業参加型の匿名組合が対象です。

未決済デリバティブ取引 として、オプション取引、先物取引等の未決済分が対象です。

未決済信用取引・発行日取引 も対象に含まれます。

なお、不動産、預金、保険は対象外です。


税率と計算方法

基本の計算式

課税方式は「みなし売却」です。国外転出日の時価で全対象資産を売却したものとみなして所得税を計算します。

税率は 15.315%(所得税15% + 復興特別所得税0.315%)です。海外転出により住民税の対象外となるため、住民税5%は課されません。

計算例1:含み益2,000万円の場合

株式総額1.2億円(取得価額1億円、含み益2,000万円)を保有して出国する場合、みなし譲渡益2,000万円 × 15.315% = 約306万円 の所得税が発生します。

計算例2:含み益5,000万円の場合

株式総額2億円(取得価額1.5億円、含み益5,000万円)を保有する場合、5,000万円 × 15.315% = 約766万円 の所得税です。

計算例3:含み損の場合

金融資産1.2億円を保有していても、含み損がある(取得価額1.3億円、時価1.2億円)場合はみなし譲渡損失となり、出国税は発生しません。ただし、1億円以上を保有しているため申告義務は生じます。


納税猶予制度の活用

出国税には納税猶予制度が設けられています。将来的に帰国する可能性がある方にとって重要な制度です。

猶予期間

原則 5年間 の猶予が認められます。さらに、届出を行うことで 最長10年間 に延長できます。

猶予の条件

国外転出前に所轄税務署に申請すること、対象資産を担保として提供すること、猶予期間中は毎年12月31日時点の対象資産の保有状況を届出すること、が必要です。

猶予期間中に売却した場合

猶予期間中に対象資産を実際に売却した場合は、その時点で猶予が終了し、売却価額に基づいて精算されます。


帰国による課税取消し

国外転出後 5年以内(納税猶予を利用している場合は 10年以内)に日本に帰国した場合、出国税の課税は取り消されます。

既に出国税を納付済みの場合は、更正の請求により還付を受けることが可能です。これは、海外赴任等で一時的に出国する方にとって重要な救済措置です。


贈与・相続への適用

出国税は個人の出国だけでなく、非居住者への贈与・相続の場合にも適用されます。

1億円以上の対象資産を保有する居住者が、非居住者に対して贈与や相続で資産を移転する場合、「国外転出(贈与・相続等)時課税」として同様の課税が行われます。

海外に住む家族への資産承継を検討する際には、この規定に十分注意してください。


2023年税制改正のポイント

2023年(令和5年)の税制改正で、出国税の適用要件が厳格化されました。

改正前: 出国前 5年以内 に5年超日本に居住していた場合に適用 改正後: 出国前 10年以内 に5年超日本に居住していた場合に適用

この改正は2023年4月1日以降の国外転出から適用されます。改正の目的は、短期間の海外滞在を挟んで出国税を回避する手法(5年ルールの悪用)を防止することです。


移住先別の影響

シンガポール移住の場合

シンガポールはキャピタルゲイン税がゼロのため、出国税さえクリアすれば、その後の株式売却益は非課税です。日本・シンガポール租税条約により、株式の譲渡益は居住地国のみで課税されます。

マレーシア移住の場合

マレーシアも株式のキャピタルゲイン税は原則ゼロです(不動産は除く)。日本・マレーシア租税条約も同様の規定があります。ラブアン法人を活用する場合はCFC税制にも注意してください。

タイ移住の場合

タイでは2024年から海外源泉所得のタイへの送金分が課税対象となりました。出国税と合わせて二重の税負担が生じないよう、送金タイミングの計画が重要です。


日本人が知っておくべき注意点

確定申告の期限: 国外転出年分の確定申告が必要です。出国日が申告期限(翌年3月15日)前の場合は、出国前に申告する必要があります。

税務代理人の選任: 出国後は日本での税務手続きを行えないため、納税管理人(税務代理人)を選任しておくことが推奨されます。

含み損との相殺: 含み益のある資産と含み損のある資産の両方を保有する場合、相殺が可能です。出国前にポートフォリオの見直しを行うことで税負担を軽減できる場合があります。

出国前の手続き一覧: ①金融資産の合計額確認 → ②税務署への事前相談 → ③国外転出日の確定 → ④確定申告書の準備 → ⑤納税猶予を希望する場合は担保準備。海外移住手続きガイドも合わせてご確認ください。


よくある質問(FAQ)

Q1: 金融資産が9,500万円の場合は対象外ですか?

対象外です。1億円未満であれば出国税は課されません。ただし、出国直前に資産を売却して1億円未満にする行為は租税回避と判定されるリスクがあります。

Q2: 不動産は出国税の対象になりますか?

不動産は対象外です。対象は有価証券、匿名組合出資持分、未決済デリバティブ、未決済信用取引の4種類のみです。

Q3: 会社員の海外赴任でも出国税は適用されますか?

金融資産1億円以上の要件を満たす場合は適用されます。ただし、赴任期間が5年以内であれば帰国時に課税取消しが可能です。納税猶予制度の活用を検討してください。

Q4: 納税猶予の担保として何を提供できますか?

対象資産そのもの(有価証券等)を担保として提供できます。税務署に事前に相談して必要な手続きを確認してください。

Q5: 出国税と租税条約の関係は?

出国税は日本国内法に基づく制度であり、租税条約とは独立しています。条約で株式譲渡益が居住地国のみで課税されると規定されていても、出国税は「出国時のみなし売却」として別途課税されます。

Q6: 配偶者や子どもへの贈与も対象ですか?

受贈者が非居住者の場合、1億円以上の対象資産の贈与には「国外転出(贈与)時課税」が適用されます。海外在住の家族への資産移転は慎重に計画してください。


まとめ:自分でできること vs 専門家に相談すべきこと

自分でできること

金融資産の合計額が1億円以上かどうかの確認、出国税の基本的な仕組み(税率15.315%、対象資産の種類)の理解、国税庁タックスアンサーNo.1478での最新情報確認は自分で行えます。

専門家に相談すべきこと

具体的な税額計算、納税猶予の申請手続きと担保設計、出国前のポートフォリオ最適化(含み損との相殺)、移住先国の租税条約との組合せ戦略は、国際税務に精通した税理士に相談してください。

まず確認すべきこと

保有する金融資産の時価合計を証券口座等で確認し、1億円以上であれば早めに税務署または税理士に相談を開始してください。出国日の少なくとも3ヶ月前には準備を始めることを推奨します。


本記事の情報は国税庁タックスアンサー(令和7年4月1日現在法令等)に基づいています。税制は改正される場合があります。

最終確認日: 2026年3月12日

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※ この記事の情報は2026年3月12日時点のものです。最新情報は各国政府の公式サイトをご確認ください。当サイトは情報提供を目的としており、法的助言を行うものではありません。