この記事のポイント
- タイの法人税率は一律20%だが、中小企業には段階的な軽減税率が適用される
- BOI(投資委員会)の恩典を活用すれば、最長13年間の法人税免除・減税が可能
- 日本との租税条約により、二重課税を回避する仕組みが整備されている
- 2026年3月時点の情報です。税制は毎年改正される場合があります
この記事は2026年3月時点のタイ歳入局およびBOI公式情報に基づいています。最新情報はタイ歳入局公式サイトで必ずご確認ください。
タイの法人税の基本構造
タイで法人を設立した場合、または外国法人がタイ国内で事業を営む場合、タイの法人所得税(Corporate Income Tax: CIT)が課されます。
基本税率は純利益の20% です。これはASEAN域内では中程度の水準であり、シンガポール(17%)よりは高いものの、フィリピン(25%)やインドネシア(22%)と比べると競争力のある税率です。
課税対象となるのは、タイ国内で設立された法人(居住法人)の場合は全世界所得、外国法人の場合はタイ国内源泉所得に限定されます。
中小企業向け優遇税率
タイでは中小企業(SME)に対して段階的な軽減税率が適用されます。適用条件は、払込資本金が5,000,000 THB(約24,692,000円) 以下で、年間売上が30,000,000 THB(約148,152,000円) 以下の法人です。
| 課税所得 | 税率 |
|---|---|
| 300,000 THB(約1,481,520円) 以下 | 免税(0%) |
| 300,001 THB(約1,481,525円) 〜3,000,000 THB(約14,815,200円) | 15% |
| 3,000,000 THB(約14,815,200円) 超 | 20% |
日本人がタイで小規模な事業を立ち上げる場合、この優遇措置を活用できれば初期の税負担を大幅に抑えることが可能です。
BOI投資恩典 — 最大13年間の法人税免除
タイ投資委員会(Board of Investment: BOI)は、タイ経済の発展に貢献する事業に対して、強力な税制優遇措置を提供しています。
BOI恩典の主な内容
法人税関連:
- 最長8年間の法人税全額免除(A1カテゴリ)
- 免除期間終了後、最長5年間の法人税50%減税
- 免除対象となる投資額に上限なし(A1・A2カテゴリ)
その他の恩典:
- 機械・原材料の輸入関税免除
- 外国人専門家の就労許可の取得優遇
- 土地所有に関する規制緩和
BOI対象事業カテゴリ(2023年改定後)
BOIは事業をA1〜B2の6カテゴリに分類し、恩典の水準が異なります。
| カテゴリ | 法人税免除期間 | 対象事業例 |
|---|---|---|
| A1+ | 10〜13年 | EV製造、半導体、AI開発 |
| A1 | 8年(上限なし) | バイオテクノロジー、先端素材 |
| A2 | 8年(投資額上限あり) | 電子部品、医療機器 |
| A3 | 5年 | 食品加工、自動車部品 |
| A4 | 3年 | 農業関連、観光業 |
| B1・B2 | 免除なし(輸入関税免除等) | 一般製造業 |
BOI申請の流れ
- 事業計画書の作成: 投資額、雇用計画、技術移転計画を含む
- BOIへの申請書提出: オンラインまたはBOI事務所で受付
- 審査: 通常60〜90営業日(大型案件は委員会審議)
- 恩典証書の発行: 条件付き承認が一般的
- 操業開始報告: 恩典の条件を満たしていることを証明
法人税の申告スケジュール
タイの法人税申告は年2回行う必要があります。
| 申告種類 | 対象期間 | 提出期限 | 使用フォーム |
|---|---|---|---|
| 中間申告 | 事業年度の前半6ヶ月 | 事業年度開始から8ヶ月以内 | PND 51 |
| 確定申告 | 事業年度全体(通常12ヶ月) | 事業年度終了から150日以内 | PND 50 |
注意点:
- 中間申告で実際の利益の25%以上を過少申告した場合、20%の加算税が課される
- 電子申告(e-Filing)を利用すると、提出期限が8日間延長される
- 事業年度は必ずしも1月〜12月である必要はなく、会社設立時に設定可能
移転価格税制
タイは2002年に移転価格税制を導入し、2019年の歳入法改正により執行が強化されています。
主なルール
- 関連者間取引は**独立企業間価格(Arm’s Length Price)**で行う必要がある
- 年間売上が200,000,000 THB(約987,680,000円) 以上の法人は、移転価格文書(TP Documentation)の作成・保管が義務
- 歳入局から要求があった場合、60日以内に文書を提出しなければならない
日本親会社との取引で注意すべき点
- ロイヤリティ、マネジメントフィー、技術指導料の設定根拠を明確にする
- 比較対象取引(Comparable Transactions)の選定を事前に行う
- 日本側の移転価格文書と整合性を保つ
日本との租税条約
日タイ租税条約は、両国間の二重課税を排除し、投資・貿易を促進するための重要な枠組みです。
主な規定(源泉税率の上限)
| 所得の種類 | 条約上の上限税率 | タイ国内法の税率 |
|---|---|---|
| 配当金 | 15%(持株25%以上は10%) | 10% |
| 利子 | 10%(金融機関は免税) | 15% |
| ロイヤリティ | 15% | 15% |
実務上のポイント
- タイから日本への配当送金時、条約上の優遇税率を適用するには「居住者証明書」が必要
- 恒久的施設(PE)認定を避けるため、日本人出張者のタイ滞在期間と業務範囲に注意する
- タイで納付した法人税は、日本の外国税額控除制度により二重課税が調整される
よくある質問(FAQ)
Q1: タイで法人を設立する際、最低資本金はいくらですか?
外国人がタイで会社(BOI認可なし)を設立する場合、外国人事業法により最低資本金2,000,000 THB(約9,876,800円) (外国人1人あたり)が求められます。BOI認可を受けた場合は、プロジェクトごとに最低投資額が設定されます。
Q2: タイの法人税は日本より安いですか?
タイの法人税率20%は、日本の実効税率(約30%)と比較して大幅に低い水準です。さらにBOI恩典やSME優遇を活用すれば、実質的な税負担をさらに抑えることが可能です。
Q3: BOI恩典は既存の事業にも適用されますか?
原則として、BOI恩典は新規投資プロジェクトが対象です。ただし、既存事業の拡張や技術向上を目的とした追加投資については、新規案件として申請できる場合があります。BOIの担当官に事前相談することを推奨します。
Q4: 法人税の申告を怠った場合のペナルティは?
申告遅延の場合、月1.5%の延滞税(最大で未納税額と同額まで)および2,000 THB(約9,877円) 以下の罰金が課されます。意図的な脱税と判断された場合は、刑事罰(懲役および罰金)の対象となります。
Q5: タイの付加価値税(VAT)の概要を教えてください。
タイのVAT標準税率は7%(国内法上は10%だが、勅令により7%に軽減中)です。年間売上が1,800,000 THB(約8,889,120円) を超える事業者はVAT登録が義務づけられています。輸出取引は0%税率(ゼロレート)が適用されます。
まとめ:自分でできること vs 専門家に相談すべきこと
自分でできること:
- タイの法人税制度の基本的な仕組みの理解
- BOI対象事業カテゴリの確認と事業計画の方向性検討
- 日タイ租税条約の概要把握
専門家に相談すべきこと:
- BOI申請の具体的な事業計画書作成と申請代行
- 移転価格税制に対応したTP文書の作成
- 日本親会社との税務ストラクチャーの設計
- 中間申告・確定申告の実務(タイの税理士資格者に委託)
タイの法人税制は日本と比較して基本税率が低く、BOI恩典を活用すれば大幅な節税が可能です。一方で、移転価格税制や申告義務の遵守を怠ると厳しいペナルティが課されるため、信頼できる現地の税務専門家と連携することが成功の鍵となります。