この記事のポイント
出国税(国外転出時課税制度) は、2015年7月1日から施行された制度で、有価証券等の含み益が1億円以上ある人が日本を出国する際に、その含み益に対して所得税(15.315%) が課される制度です。
ASEAN各国への移住を検討する富裕層・経営者にとって、出国税は移住計画に大きな影響を与えます。本ガイドでは、出国税の対象資産、計算方法、納税猶予制度、ASEAN移住時の実務的な対応策を解説します。
📌 出国税は高額な課税が生じうる制度です。移住前に必ず税務専門家に相談してください。
出国税の対象者
対象となる人
以下の全ての条件を満たす人が対象です:
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 所有する対象資産の含み益合計 | 1億円以上 |
| 出国日前10年間のうち国内在住期間 | 5年超 |
| 出国の形態 | 国外転出(住所・居所を国外に移す) |
対象にならない人
- 対象資産の含み益合計が1億円未満の人
- 過去10年間のうち日本国内在住が5年以下の外国人(短期滞在者)
- 一時的な出国で、出国後に帰国する予定がある人(納税猶予制度の利用)
対象資産
課税対象となる資産
| 資産種類 | 対象 | 備考 |
|---|---|---|
| 上場株式 | ○ | 日本株・外国株ともに |
| 非上場株式 | ○ | 自社株を含む |
| 投資信託 | ○ | — |
| 社債・国債 | ○ | — |
| 先物取引・オプション | ○ | 未決済ポジション |
| 暗号資産(仮想通貨) | ✕ | 対象外 |
| 不動産 | ✕ | 対象外 |
| 貴金属・宝石 | ✕ | 対象外 |
| 預貯金 | ✕ | 対象外 |
1億円の判定方法
- 対象資産の含み益(時価 − 取得価額) の合計が1億円以上かどうかで判定
- 含み損がある資産は含み益と通算可能
- 判定時期は出国日の時価
課税金額の計算
計算式
計算例
| 資産 | 取得価額 | 出国日の時価 | 含み益 |
|---|---|---|---|
| 日本上場株式A | 30,000,000 JPY(約0円) | 80,000,000 JPY(約0円) | 50,000,000 JPY(約0円) |
| シンガポール上場株式B | 20,000,000 JPY(約0円) | 60,000,000 JPY(約0円) | 40,000,000 JPY(約0円) |
| 非上場株式(自社株) | 10,000,000 JPY(約0円) | 40,000,000 JPY(約0円) | 30,000,000 JPY(約0円) |
| 合計 | — | — | 120,000,000 JPY(約0円) |
- 課税所得:120,000,000 JPY(約0円)
- 税額:120,000,000 JPY(約0円) × 15.315% = 約 18,378,000 JPY(約0円)
納税猶予制度
制度の概要
出国税の納税を最長10年間猶予する制度があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 猶予期間 | 最長5年(届出により最長10年に延長可) |
| 担保の提供 | 必要(対象資産の全部または一部を担保に) |
| 確定申告 | 出国年分の確定申告で猶予の適用を申請 |
| 各年の継続届出 | 毎年、納税猶予の継続届出書を提出 |
猶予期間中に帰国した場合
猶予期間中に日本に帰国(出国日から5年/10年以内)し、対象資産を引き続き保有している場合、出国税は取り消されます。
猶予期間中に資産を売却した場合
猶予期間中に対象資産を売却した場合:
- 売却した資産に対応する出国税を猶予期間の満了日までに納付
- 売却益が出国日の含み益を下回る場合は、減額更正の請求が可能
ASEAN各国への移住時の影響
移住先別の検討ポイント
| 移住先 | 出国税の影響 | 移住先での課税 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| シンガポール | 通常通り課税 | キャピタルゲイン非課税 | 移住後の売却益は非課税 |
| マレーシア | 通常通り課税 | キャピタルゲイン一部課税 | 非上場株式は10%課税 |
| タイ | 通常通り課税 | 累進課税 | 海外送金分のみ課税 |
| ベトナム | 通常通り課税 | 20%課税 | 居住者となった場合 |
移住のタイミングと対策
出国税の影響を合法的に軽減するための方法:
- 資産の含み益が1億円未満になるタイミングで出国:対象外となる
- 納税猶予制度の活用:5〜10年以内に帰国する可能性がある場合
- 出国前に一部資産を売却:含み益を確定し、通常の申告分離課税(20.315%)で処理
キャピタルゲイン税の比較はASEAN各国のキャピタルゲイン税比較を参照してください。
確定申告の手続き
出国年分の確定申告
出国する年の確定申告は、以下の期限までに行います:
| 状況 | 申告期限 |
|---|---|
| 出国時に確定申告が完了していない場合 | 出国の日までに準確定申告 |
| 納税管理人を選任した場合 | 翌年3月15日(通常の期限) |
納税管理人の選任
出国後の税務手続きを代行する納税管理人を日本国内で選任する必要があります。
- 納税管理人は個人でも法人でも可
- 税理士を選任するのが一般的
- 出国前に「納税管理人の届出書」を税務署に提出
日本人が知っておくべき注意点
贈与・相続との関係
出国税の制度は、贈与・相続の場面でも類似の課税が行われます:
- 贈与:非居住者に対象資産を贈与する場合、含み益に課税
- 相続:非居住者が対象資産を相続する場合、含み益に課税
暗号資産は対象外だが…
現在、暗号資産(仮想通貨)は出国税の対象外ですが、将来的に対象に追加される可能性は否定できません。また、暗号資産は通常の総合課税(最大55%)の対象であるため、移住前の売却を検討する価値があります。
暗号資産の課税についてはASEAN暗号資産課税比較を参照してください。
よくある質問(FAQ)
Q1: 出国税は移住先の国でも二重課税されますか?
A: 出国税で課税された含み益は、移住先で実際に売却した際の取得価額を調整することで二重課税が回避されます。ただし、移住先の国の税制によっては調整が認められない場合もあります。租税条約に基づく調整が必要です。
Q2: 自社株(非上場株式)の時価はどう評価しますか?
A: 所得税法上の「時価」は、原則として類似業種比準方式、純資産価額方式、または配当還元方式で評価します。自社株の時価評価は専門的な作業であり、税理士に依頼してください。
Q3: 短期の海外赴任でも出国税は適用されますか?
A: 海外赴任で住所を移す場合は形式的に対象ですが、納税猶予制度を利用し、帰国後に出国税を取り消すことが可能です。赴任前に税務署に届出を行ってください。
Q4: 出国税を払った後、対象資産の価値が下がった場合はどうなりますか?
A: 納税猶予を利用している場合で、猶予期間中に売却して損失が出た場合は、減額更正の請求が可能です。猶予を利用していない場合の還付は困難です。
Q5: 配偶者が日本に残り、自分だけが移住する場合は?
A: 出国者本人が対象資産の含み益1億円以上を有していれば課税対象です。配偶者の資産は配偶者自身の判定となります。ただし、共有財産の場合は持分に応じた判定が必要です。
まとめ:自分でできること vs 専門家に相談すべきこと
✅ 自分でできること
- 保有する対象資産の含み益の概算確認
- 1億円基準に該当するかの初期判断
- 移住先のキャピタルゲイン税制の基本理解
⚠️ 専門家と協力すべきこと
- 対象資産の正確な時価評価(特に非上場株式)
- 納税猶予制度の利用可否の判断
- 移住スケジュールの税務最適化
🔴 必ず専門家に依頼すべきこと
- 出国年分の確定申告(準確定申告)の作成
- 納税管理人の選任と届出
- 移住先との二重課税調整の確認