タイの個人所得税(PIT)とは
タイの個人所得税(Personal Income Tax、以下PIT)は、個人の所得に直接課される直接税です。課税対象となる「人」の範囲は日本より広く、個人のみならず、普通組合(ordinary partnership)・非法人団体・未分割相続財産も含まれます。
申告は暦年(1月1日〜12月31日)ベースで行い、納税者自身が税額を計算し申告・納付します。
タイ歳入局(Revenue Department)の公式情報に基づき、起業家・経営者が実務で使える情報を整理します。
税率・条件・費用(具体的な数字)
■ 居住者・非居住者の区分
| 区分 | 定義 | 課税範囲 |
|---|---|---|
| 居住者 | タイ国内に合計180日超滞在した者 | タイ国内所得 + タイに持ち込んだ国外所得 |
| 非居住者 | 180日以下の滞在者 | タイ国内所得のみ |
⚠️ 「合計180日」は一度の滞在ではなく、その暦年内の累計日数で判定されます。
■ 累進税率(2013年以降適用)
| 課税所得(バーツ) | 税率 |
|---|---|
| 0 〜 150,000 | 免税(0%) |
| 150,001 〜 300,000 | 5% |
| 300,001 〜 500,000 | 10% |
| 500,001 〜 750,000 | 15% |
| 750,001 〜 1,000,000 | 20% |
| 1,000,001 〜 2,000,000 | 25% |
| 2,000,001 〜 4,000,000 | 30% |
| 4,000,001 以上 | 35% |
■ 所得の8分類と控除率
PITの課税対象所得(Assessable Income)は8種類に分類され、それぞれ控除率が異なります。
| 所得区分 | 控除率 |
|---|---|
| 雇用所得(給与等) | 40%(上限60,000バーツ) |
| 著作権収入 | 40%(上限60,000バーツ) |
| 不動産賃貸(建物・埠頭) | 30% |
| 不動産賃貸(農地) | 20% |
| 不動産賃貸(その他の土地) | 15% |
| 不動産賃貸(車両) | 30% |
| 不動産賃貸(その他資産) | 10% |
| 自由職業(医療職) | 60% |
| 自由職業(医療職以外) | 30% |
| 請負工事(材料提供あり) | 実費 または 70% |
| 事業・商業・農業・運輸等 | 実費 または 65〜85%(所得種類による) |
■ 人的控除(アローワンス)一覧
| 控除項目 | 控除額 |
|---|---|
| 本人控除(個人) | 30,000バーツ |
| 配偶者控除 | 30,000バーツ |
| 子供控除(25歳未満・在学中等) | 15,000バーツ/人(最大3人) |
| 教育追加控除(タイ国内在学) | 2,000バーツ/人 |
| 親控除(60歳超・所得30,000バーツ未満) | 30,000バーツ/人(本人・配偶者の親それぞれ) |
| 生命保険料 | 実際支払額(上限100,000バーツ) |
| 承認済み積立年金(プロビデントファンド) | 給与の15%以内・上限500,000バーツ |
| 長期株式ファンド(LTF) | 給与の15%以内・上限500,000バーツ |
| 住宅ローン利息 | 実際支払額(上限100,000バーツ) |
| 社会保険料 | 実際支払額(本人・配偶者それぞれ) |
| 寄付金控除 | 控除後所得の10%以内 |
■ 配当税額控除
タイ国内に住所を有する居住者がタイ法人から配当を受けた場合、受取配当額の3/7相当の税額控除が適用されます(グロスアップ計算が必要)。
申告・納税の手順
STEP 1:所得区分の確認
自分の所得が上記8分類のどれに該当するかを整理する。複数区分にまたがる場合は、それぞれ別途計算が必要。
STEP 2:課税所得の計算
STEP 3:税額の試算
課税所得に累進税率を適用。各ブラケットごとに計算し合算する。
STEP 4:配当税額控除の適用(該当者のみ)
タイ法人から配当を受けた場合、グロスアップ後の金額を課税所得に加算し、3/7を税額から控除。
STEP 5:申告書の提出
暦年終了後に申告書を提出。中間申告が必要な所得区分(事業所得等)は年の途中で中間納付が求められる場合もある。
STEP 6:納税
計算された税額を期限内に納付。源泉徴収済みの金額がある場合は差し引いて精算。
日本との違い・対比
タイのPITと日本の所得税を主要項目で比較します。
| 比較項目 | タイ(PIT) | 日本(所得税) |
|---|---|---|
| 最高税率 | 35% | 45%(課税所得4,000万円超) |
| 非課税枠 | 150,000バーツ(約60万円相当) | 195万円以下は5%(非課税ゼロ) |
| 課税年度 | 暦年(1/1〜12/31) | 暦年(1/1〜12/31)※同じ |
| 居住者判定 | 180日超 | 国内に住所・1年以上居所 |
| 国外所得課税 | 居住者はタイ持込分のみ課税 | 居住者は全世界所得課税 |
| 本人控除 | 30,000バーツ | 48万円(基礎控除) |
| 給与所得控除 | 40%・上限60,000バーツ | 55万〜195万円(収入額により変動) |
| 配偶者控除 | 30,000バーツ | 最大38万円 |
| 住宅ローン控除 | 利息の実額・上限100,000バーツ | 年末残高×0.7%(最大35万円) |
| 申告方式 | 自己申告 | 自己申告または年末調整 |
消費税との比較(参考)
日本の消費税は標準税率10%(うち地方消費税2.2%)、軽減税率8%(うち地方消費税1.76%)(令和7年4月1日現在法令)です。タイのVAT(付加価値税)は**7%**であり、日本より低税率です。消費課税の負担感はタイの方が軽い点も、経営コストに影響します。
法人税との比較(参考)
日本の法人税率は、資本金1億円以下の中小法人で年800万円以下の部分が15%、それ超が19%、一般の大法人は23.2%(令和7年4月1日以降)です。タイの法人税(CIT)は一般的に**20%**であり、大法人との比較ではタイの方が若干低い水準です。
日本人が注意すべきポイント
⚠️ 注意点①:180日ルールは「合計日数」
タイに滞在した日数が暦年で合計180日を超えると居住者とみなされます。1回の滞在でなく、年間を通じた累計で判定される点を見落としがちです。複数回タイに入国している方は日数管理が必須です。
⚠️ 注意点②:国外所得は「タイへの持込分」のみ課税
タイの居住者でも、日本や第三国で稼いだ所得をタイに送金・持ち込まない限り、タイでは課税されません。日本の「全世界所得課税」とは考え方が根本的に異なります。ただし日本の居住者である期間との二重課税リスクには注意が必要です。
⚠️ 注意点③:給与所得控除の上限が低い
日本の給与所得控除は収入に応じて最大195万円まで認められますが、タイのPITでは**40%・上限60,000バーツ(約24万円相当)**と上限が低く設定されています。高収入者ほど実質的な課税ベースが日本より広くなる点に注意。
⚠️ 注意点④:現物給与(In-kind)も課税対象
会社が社員のために支払う家賃負担・税金肩代わりなども「Assessable Income(課税対象所得)」に含まれます。日本でも経済的利益は原則課税ですが、タイでは特に明文化されており、福利厚生設計の際に注意が必要です。
⚠️ 注意点⑤:配当のグロスアップ計算が必要
タイ法人から配当を受ける場合、受取金額の3/7を加算してグロスアップした上で課税所得を計算し直す必要があります。日本の配当控除とは計算方法が異なるため、慣れていないと申告誤りが生じやすいです。
⚠️ 注意点⑥:親控除の所得要件
親控除(30,000バーツ/人)は、対象の親の所得が30,000バーツ未満であることが条件です。日本の扶養控除(38万円)とは要件が異なります。
まとめ・次のアクション
【ブロック1: 自分でできるステップチェックリスト】
- ① タイ歳入局公式サイト(rd.go.th)にアクセスし、PITに関する最新様式・ガイドラインを確認する
- ② 当該暦年のタイ滞在日数を集計し、180日超かどうか(居住者判定)を確認する
- ③ 自分の所得を8分類に当てはめ、適用される控除率(40%・70%等)を整理する
- ④ 人的控除の適用対象(配偶者・子供・親・生命保険料等)を一覧化し、必要書類を準備する
- ⑤ 課税所得=総所得-所得控除-人的控除の計算式で概算税額を試算する
- ⑥ タイ国外(日本等)で獲得した所得のうち、タイへ送金・持ち込んだ金額を記録する
- ⑦ 申告期限(原則翌年3月末)に向け、源泉徴収票・所得証明書類を収集する
- ⑧ 日本でも引き続き居住者扱いとなる場合は、日タイ租税条約の適用可否を確認する
【ブロック2: 自分では調べにくい・状況によって異なること】
以下の疑問は、個別の事情によって答えが変わるため、一般情報だけでは判断が難しい項目です:
- 「自分のタイ滞在日数は180日を超えているか(複数ビザ・出入国を繰り返している場合)」
- 「日本とタイの租税条約は自分のケース(役員報酬・配当・ロイヤリティ等)に具体的にどう適用されるか」
- 「日本に住民票を残したまま長期タイ滞在する場合、日本・タイ双方で居住者とみなされる二重居住の扱いはどうなるか」
- 「タイ法人から日
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この記事はタイ歳入局(Revenue Department)VAT詳細の公式情報を基に作成しています。法律・税制は変更される場合があります。最新情報は必ず公式サイトをご確認ください。