この記事のポイント
シンガポールのPte Ltd(Private Limited Company)は、ASEAN最も設立しやすい法人形態の一つです。ACRA(会計企業規制庁)公式情報に基づき、2026年3月時点の設立要件・費用・税制優遇を解説します。
最低資本金SGD 1(約113円)から設立可能、法人税は名目17%ですが新設法人は実効税率約8.5%まで下がります。100%外資OKで、BizFile+を通じたオンライン登録は1〜3営業日で完了します。
シンガポールPte Ltdの基本構造
管轄当局
Pte Ltdの設立・管理はACRA(Accounting and Corporate Regulatory Authority)が管轄します。オンラインポータル「BizFile+」からすべての手続きが可能です。
設立要件
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 株主 | 最低1名(最大50名)。個人・法人いずれも可。100%外資OK |
| 取締役 | 最低1名。うち1名はシンガポール居住者(市民・PR・EP保有者) |
| 会社秘書役 | 設立後6ヶ月以内に1名任命。シンガポール居住者 |
| 登記住所 | シンガポール国内の住所(私書箱不可) |
| 最低資本金 | SGD 1(約1 SGD(約124円、2026-03-11時点) )。上限なし |
| 会計年度 | 任意に設定可能(多くは12月末または3月末) |
重要: 取締役にシンガポール居住者が最低1名必要です。非居住者のみでの設立はできません。ノミニーディレクターサービスを利用する方法もありますが、実質的な経営責任を伴います。
設立費用の詳細
| 費目 | 金額 | 円換算(目安) |
|---|---|---|
| ACRA登録料(BizFile+) | SGD 315 | 約35,600円 |
| 会社名予約(任意) | SGD 15 | 約1,700円 |
| 会社秘書役(年間) | SGD 300〜1,200 | 約33,900〜135,600円 |
| 登記住所(年間) | SGD 300〜1,000 | 約33,900〜113,000円 |
| 会計・監査(年間) | SGD 1,000〜5,000 | 約113,000〜565,000円 |
※ 1 SGD ≈ 113円(2026年3月時点)。出典:ACRA公式料金表。
初年度の目安総額: SGD 2,000〜8,000(約22.6〜90.4万円)。会計事務所にパッケージで依頼すると割安になる場合があります。
設立手順(ステップバイステップ)
Step 1: 会社名の予約(1日)
BizFile+で希望の会社名を検索・予約します。既存の商標や登記名と重複しないことが条件です。予約費用はSGD 15で、120日間有効です。
Step 2: 必要書類の準備(1〜2日)
必要書類は以下の通りです。
- 取締役・株主のパスポートコピー
- 取締役・株主の住所証明(3ヶ月以内)
- 会社の定款(Memorandum & Articles of Association)
- 登記住所の証明
- 取締役のシンガポール居住証明(FIN番号など)
Step 3: BizFile+でオンライン登録(1〜3営業日)
ACRA公式ポータル「BizFile+」から法人登録を申請します。通常1〜3営業日で承認されます。特殊業種(金融・教育・メディアなど)は追加の許認可が必要で、別途時間がかかります。
Step 4: 設立後の義務(6ヶ月以内)
設立完了後、以下を6ヶ月以内に完了させます。
- 会社秘書役の任命
- 法人銀行口座の開設
- IRAS(税務当局)への届出
- GST登録の要否確認(年間売上SGD 1M超で義務)
法人税制の詳細
基本税率
シンガポールの法人税率は17%(フラットレート)です。ただし、新設法人には大幅な優遇があります。
新設法人の税制優遇(Startup Tax Exemption)
設立から最初の3年間は、以下の免税スキームが適用されます。
| 課税所得 | 免税率 | 実質課税額 |
|---|---|---|
| 最初のSGD 100,000 | 75%免税 | SGD 25,000に対し17% = SGD 4,250 |
| 次のSGD 100,000 | 50%免税 | SGD 50,000に対し17% = SGD 8,500 |
| SGD 200,000超 | 免税なし | 全額に17% |
つまり、課税所得SGD 200,000(約2,260万円)以下なら**実効税率は約6.4%**です。
その他の税制メリット
- キャピタルゲイン税: なし(株式・不動産の売却益は原則非課税)
- 配当税: なし(シンガポール法人からの配当は非課税)
- GST: 9%(年間売上SGD 100万超で登録義務)
- 租税条約: 日本を含む90カ国以上と締結
日本・シンガポール租税条約では配当源泉税が0%(持株10%以上)/ 5%(その他)と、ASEAN最優遇水準です。詳細は日本・シンガポール租税条約ガイドをご覧ください。
ASEAN他国法人との比較
| 項目 | シンガポール Pte Ltd | マレーシア Sdn Bhd | タイ有限会社 | ベトナム LLC |
|---|---|---|---|---|
| 法人税率 | 17%(実効8.5%) | 24% | 20% | 20% |
| 最低資本金 | SGD 1 | RM 1 | THB 200万(WP用) | なし(業種別) |
| 外資比率 | 100%可 | 100%可 | 51%タイ人(原則) | 100%可(業種別) |
| 設立期間 | 1〜3日 | 7〜14日 | 2〜4週間 | 3〜4週間 |
| CGT | なし | なし | なし(個人) | 20% |
詳しい比較はASEAN法人設立比較ガイドをご覧ください。
日本人が知っておくべき注意点
ノミニーディレクターのリスク
シンガポール居住取締役が確保できない場合、ノミニーディレクターサービスを利用することがあります。しかし、ノミニーは法的な取締役責任を負うため、信頼できるサービスプロバイダーの選定が重要です。年間SGD 2,000〜5,000程度の費用がかかります。
銀行口座開設の厳格化
近年、シンガポールの銀行はAML(マネーロンダリング対策)を強化しており、法人口座の開設審査が厳しくなっています。取締役のシンガポール訪問が必要な場合もあります。詳細はシンガポール銀行口座ガイドを参照してください。
日本のCFC税制との関係
シンガポールの法人税17%は日本のCFC判定基準(20%未満)を下回る場合がありますが、実効税率で判定されるため、通常のPte Ltdは対象外です。ただし、免税スキームの活用度合いによっては注意が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q1: 日本に住みながらシンガポールPte Ltdを設立できますか?
はい、可能です。ただし、取締役にシンガポール居住者が最低1名必要です。自分が居住者でない場合はノミニーディレクターを利用するか、シンガポール居住のパートナーを取締役に任命します。
Q2: 資本金はいくらが適切ですか?
法定最低はSGD 1ですが、銀行口座開設や取引先の信用を考慮するとSGD 10,000〜50,000程度が実務的です。資本金は後から増資可能です。
Q3: EP(就労ビザ)の取得にPte Ltdは必要ですか?
EP申請にはシンガポール法人のスポンサーが必要です。自社設立のPte LtdでEPをスポンサーできますが、最低月給SGD 5,600以上(2026年基準)が条件です。
Q4: 会計監査は必ず必要ですか?
「Small Company」の要件(売上SGD 10M以下・総資産SGD 10M以下・従業員50名以下のうち2つ以上を満たす)を満たせば、監査は免除されます。多くの新設企業はこの免除を受けられます。
Q5: シンガポール法人の維持費は年間いくらですか?
最低限でも年間SGD 3,000〜5,000(約34〜57万円)程度かかります。内訳は会社秘書役、登記住所、会計・税務申告の費用です。事業規模が大きくなると監査費用も加わります。
Q6: シンガポールPte Ltdを使ってASEAN全体に展開できますか?
シンガポールはASEANのビジネスハブとして最適です。多くの多国籍企業がシンガポールをASEAN統括拠点として利用しています。租税条約ネットワークも充実しており、配当・ロイヤリティの送金に有利です。
まとめ:自分でできること vs 専門家に相談すべきこと
自分でできること: 会社名の選定、事業計画の策定、BizFile+での基本情報確認
専門家に相談すべきこと: 居住取締役の確保、会計事務所の選定、銀行口座開設のサポート、EP申請との連携
確認すべきこと: 日本のCFC税制の影響、租税条約の活用方法、業種別の追加許認可の要否