この記事のポイント
シンガポールは世界有数のファミリーオフィス設立地で、2020年以降、アジアの富裕層を中心に急速に設立数が増加しています。MAS(シンガポール金融管理局)が管轄する13Oスキーム(旧13R)と13Uスキーム(旧13X)を活用することで、ファンドの運用益に対する法人税免除を受けられます。ただし、2023年の要件改定により、最低AUM(運用資産額)や現地雇用の要件が厳格化されました。
ファミリーオフィスの基本構造
シングルファミリーオフィス(SFO)の仕組み
シンガポールのSFO構造は通常、以下の2つのエンティティで構成されます。
| エンティティ | 役割 | 法人形態 |
|---|---|---|
| ファンド車両(Fund Vehicle) | 資産の保有・運用 | Pte. Ltd.(私有会社) |
| ファミリーオフィス(FO) | ファンドの運用管理 | Pte. Ltd.(私有会社) |
ファミリーオフィスがファンド車両の資産を運用し、その運用益がMASのスキームに基づいて免税となります。
13Oと13Uの比較
| 項目 | 13Oスキーム | 13Uスキーム |
|---|---|---|
| 旧名称 | Section 13R | Section 13X |
| 最低AUM | 20,000,000 SGD(約2,481,698,000円) (設立時)→ 2年以内に 50,000,000 SGD(約6,204,245,000円) | 50,000,000 SGD(約6,204,245,000円) (設立時) |
| ファンドの法人形態 | シンガポール法人のみ | シンガポール法人、LP、信託等 |
| 投資プロフェッショナル(IP) | 最低2名 | 最低3名 |
| IPの給与基準 | 各年 200,000 SGD(約24,816,980円) 以上 | 各年 200,000 SGD(約24,816,980円) 以上 |
| 現地事業支出 | 年間 500,000 SGD(約62,042,450円) 以上 | 年間 500,000 SGD(約62,042,450円) 以上 |
| ブレンドドレート | — | AUMの0.1%以上の追加投資コミットメント |
| 適格投資先 | MAS指定の投資カテゴリー | MAS指定の投資カテゴリー |
2023年の要件改定のポイント
2023年4月18日以降、MASは以下の要件を新設・強化しました。
| 改定項目 | 内容 |
|---|---|
| 現地投資要件 | AUMの10%以上(最低 10,000,000 SGD(約1,240,849,000円) )をシンガポールまたはASEAN関連資産に投資 |
| 気候関連投資 | ESG/サステナビリティ関連投資の奨励 |
| 慈善寄付 | 年間 200,000 SGD(約24,816,980円) 以上のシンガポールへの慈善寄付 |
| 資本市場への貢献 | シンガポールのVCファンドやブレンドドファイナンスへの投資奨励 |
設立手続き
ステップバイステップガイド
| ステップ | 内容 | 所要期間 |
|---|---|---|
| 1 | 法的構造の設計(弁護士・税務アドバイザーと) | 1〜2か月 |
| 2 | ファンド車両とFOの法人設立 | 1〜2週間 |
| 3 | 銀行口座の開設と資金移転 | 2〜4週間 |
| 4 | 投資プロフェッショナルの採用 | 1〜3か月 |
| 5 | MASへの免税申請(13Oまたは13U) | 4〜6か月 |
| 6 | MASの承認 | — |
| 7 | 運用開始 | — |
MAS申請に必要な書類
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| ビジネスプラン | 投資戦略、AUM計画、組織体制 |
| UBO(最終受益者)情報 | 家族構成、資産の出所証明 |
| AML/CFTポリシー | マネーロンダリング防止方針 |
| 投資プロフェッショナルの経歴 | 金融業界での実務経験 |
| 財務諸表 | ファンド車両の監査済み財務諸表(既存の場合) |
設立・運営コスト
初期費用
| 項目 | 費用目安 |
|---|---|
| 法人設立(2社) | 5,000 SGD(約620,424円) 〜10,000 |
| 法律アドバイザー費用 | 50,000 SGD(約6,204,245円) 〜150,000 |
| 税務アドバイザー費用 | 30,000 SGD(約3,722,547円) 〜80,000 |
| MAS申請費用 | 500 SGD(約62,042円) |
| 銀行口座開設 | 無料〜 5,000 SGD(約620,424円) |
年間運営コスト
| 項目 | 年間費用 |
|---|---|
| 投資プロフェッショナル(2〜3名の給与) | 500,000 SGD(約62,042,450円) 〜1,500,000 |
| オフィス賃料 | 50,000 SGD(約6,204,245円) 〜200,000 |
| 監査・会計費用 | 20,000 SGD(約2,481,698円) 〜50,000 |
| コンプライアンス・法務 | 30,000 SGD(約3,722,547円) 〜100,000 |
| その他(保険、IT等) | 20,000 SGD(約2,481,698円) 〜50,000 |
| 慈善寄付 | 200,000 SGD(約24,816,980円) 〜 |
| 合計 | 820,000 SGD(約101,749,618円) 〜2,100,000 |
現地事業支出の最低要件(500,000 SGD(約62,042,450円) /年)は、上記の運営コストの多くが算入可能です。
投資戦略と適格投資
適格投資カテゴリー
MASが認める適格投資には以下が含まれます。
| カテゴリー | 例 |
|---|---|
| 上場株式・債券 | グローバル株式、国債、社債 |
| 非上場株式 | プライベートエクイティ、VC |
| 不動産 | 不動産ファンド(直接保有は制限あり) |
| ヘッジファンド | 外部ヘッジファンドへの投資 |
| デリバティブ | オプション、先物 |
シンガポール国内の不動産を直接購入する場合は適格投資に含まれない場合があるため、注意が必要です。シンガポール不動産投資ガイドも参照してください。
現地投資要件
2023年以降、AUMの10%以上をシンガポールまたはASEAN関連資産に投資する義務があります。以下が対象です。
- SGXに上場する株式・債券
- シンガポール拠点のVCファンドへの出資
- シンガポールの不動産ファンドへの投資
- ASEAN域内の企業への直接投資
ビザとの関連
ファミリーオフィスとビザ
ファミリーオフィスの設立者は、以下のビザオプションがあります。
| ビザタイプ | 条件 |
|---|---|
| EP(Employment Pass) | FOの取締役・CIOとして申請 |
| ONE Pass | 年収 300,000 SGD(約37,225,470円) 以上 |
| GIP(投資家永住権) | AUM 200,000,000 SGD(約24,816,980,000円) 以上等の条件 |
EPでの申請が最も一般的です。詳細はシンガポールの就労パス比較を参照してください。
日本人が知っておくべき注意点
日本のCFC税制
日本のCFC税制(タックスヘイブン対策税制)により、日本居住者がシンガポールのファミリーオフィスを通じて得た運用益が、日本で課税される可能性があります。日本のCFC税制ガイドを必ず確認してください。
出国税への影響
ファミリーオフィスへの資産移転前に、日本の出国税(国外転出時課税)の適用可否を確認する必要があります。
暗号資産の取り扱い
暗号資産をファミリーオフィスで運用する場合は、MASの規制に基づく追加のライセンスが必要な場合があります。シンガポールの暗号資産規制を参照してください。
よくある質問(FAQ)
Q1: ファミリーオフィスの設立にはどのくらいの資産が必要ですか?
13Oスキームで最低 20,000,000 SGD(約2,481,698,000円) (約22億円)、13Uスキームで最低 50,000,000 SGD(約6,204,245,000円) (約55億円)です。ただし、年間運営コストが 820,000 SGD(約101,749,618円) 以上かかるため、実質的にはより大きなAUMが必要です。
Q2: 家族以外の資金もファミリーオフィスで運用できますか?
シングルファミリーオフィスは原則として単一の家族の資産のみを管理します。複数の家族の資産を管理する場合はマルチファミリーオフィスとなり、MASのライセンスが必要です。
Q3: MASの審査にはどのくらいかかりますか?
通常4〜6か月ですが、書類の不備や追加確認がある場合は12か月以上かかることもあります。AML/CFTの確認が最も時間を要する部分です。
Q4: 13Oと13U、どちらを選ぶべきですか?
AUMが 50,000,000 SGD(約6,204,245,000円) 未満の場合は13Oが唯一の選択肢です。50,000,000 SGD(約6,204,245,000円) 以上の場合、13Uの方がファンド構造の柔軟性が高い(LP形態も可能)ため、個別の状況に応じて選択します。
Q5: ファミリーオフィスを閉鎖する場合はどうなりますか?
MASに免税スキームの終了を届け出て、法人を清算します。免税期間中に得た運用益は遡及課税されません。ただし、スキームの要件を満たしていなかった期間がある場合は、その期間の運用益に課税される可能性があります。
まとめ:自分でできること vs 専門家に相談すべきこと
自分でできること:
- ファミリーオフィスの概要理解と検討
- 投資戦略の大枠の策定
専門家に相談すべきこと:
- 法的構造の設計とMAS申請(弁護士)
- 税務プランニングと日本のCFC税制対策(税理士)
- 投資プロフェッショナルの採用(人材紹介会社)
- 銀行口座の開設と資産移転
ファミリーオフィスの設立は複雑で高コストですが、正しく構造化すれば大きな税務メリットが得られます。経験豊富な専門家チームと連携して進めてください。