エンプロイメントパス(EP)とは
エンプロイメントパス(Employment Pass、以下EP)は、シンガポール政府・人材省(MOM:Ministry of Manpower)が発行する、外国人の専門職・管理職・経営幹部・技術者向けの就労許可証だ。シンガポールで働く外国人の中でも「ホワイトカラー」層を対象とした最上位の就労ビザに位置づけられる。
EPを取得すると、シンガポール国内での就労はもちろん、家族の帯同(Dependent’s Pass)、永住権(PR)申請への道も開ける。日本から「シンガポールで働きたい」「現地法人の駐在として赴任する」「起業して自らEPを取得したい」という場合、このビザが最初の選択肢となる。
主要スペック・数字
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 外国人の専門職・管理職・経営幹部・技術者 |
| 最低月給(一般) | SGD5,600(2025年時点) |
| 最低月給(金融セクター) | SGD5,600〜(要公式確認:セクターにより異なる場合あり) |
| 有効期間(初回) | 最長2年(企業の状況によって1〜2年) |
| 有効期間(更新後) | 最長3年 |
| 有効期間(ITスキル不足職種) | 5年(2023年9月〜、対象職種限定) |
| 申請主体 | 雇用主(本人申請不可・原則) |
| 申請費用 | 申請:SGD105、発行:SGD225(要公式確認) |
| 審査期間 | 通常3〜8週間(書類が揃っている場合) |
| 審査システム | COMPASS(2段階評価) |
| 家族帯同 | Dependent’s Pass(DP)・Long-Term Visit Pass(LTVP)の申請可能 |
| 永住権(PR)申請 | EP保持者として申請可能(最短6ヶ月〜) |
申請の2段階審査:COMPASS(Complementarity Assessment Framework)
2023年9月から導入されたCOMPASSは、EPの審査をより透明化するためのポイント制フレームワークだ。**Stage 1(給与基準)**をクリアした後、**Stage 2(COMPASSポイント)**で審査される。
Stage 1:給与基準
- 一般職種:月給SGD5,600以上
- 年齢が上がるほど求められる給与水準も上昇(40代では月給SGD10,700以上が目安とされる)
- 金融セクター:別途基準あり(要公式確認)
Stage 2:COMPASSポイント(40点以上で通過)
COMPASSでは以下の4カテゴリ(各最大20点)で評価され、合計40点以上が必要。ボーナスポイント(最大20点)も加算される。
| カテゴリ | 評価内容 | 最大点 |
|---|---|---|
| C1 給与 | 同職種・同年齢の現地賃金中央値との比較 | 20点 |
| C2 資格 | 学歴(大学ランキングなど) | 20点 |
| C3 多様性(企業の外国人比率) | 同国籍の外国人比率が低いほど高得点 | 20点 |
| C4 地域本部・戦略的活動 | 企業のシンガポールでの位置づけ | 20点 |
| ボーナス | 技能不足職種・中小企業支援など | 最大20点 |
ポイント:C3の「多様性」カテゴリは、同じ国籍(例:日本人)の占める割合が高い企業ほど日本人のEP取得が不利になる。日系企業に転職・赴任する場合は注意が必要。
申請手順:ステップバイステップ
ステップ1:MyCareersFutureへの求人掲載(公正採用の証明)
雇用主はMyCareersFuture.sgでポジションを最低14日間掲載し、シンガポール人・永住権者を公正に選考したことを証明しなければならない(Fair Consideration Framework)。これを怠ると申請が却下される。
ステップ2:Self-Assessment Tool(SAT)で事前確認
MOM公式の**EP SAT(自己診断ツール)**で、申請前に承認可能性をシミュレーションできる。必須ではないが、申請前に必ず確認することを強く推奨する。
- URL:https://www.mom.gov.sg/eservices/employment-s-pass-self-assessment-tool
ステップ3:必要書類の準備
| 書類 | 詳細 |
|---|---|
| パスポートコピー | 有効期限6ヶ月以上 |
| 証明写真 | 規定サイズ |
| 最終学歴証明書 | 大学の卒業証明書・成績証明書(英語訳付き) |
| 職歴証明 | 過去の雇用契約書・在職証明書 |
| オファーレター | 給与・職種が明記されたもの |
| 企業書類 | 雇用主のACRA登録証など |
日本語の書類は公証済み英語訳が必要。日本の大学の卒業証明書は英語版を大学から取り寄せるか、翻訳・公証を取ること。
ステップ4:EP eServiceからオンライン申請
雇用主(またはその代理人)がEP eService(https://www.mom.gov.sg/eservices/employment-pass-eservice)からオンラインで申請する。申請費用はSGD105(要公式確認)。
ステップ5:審査・結果通知
通常3〜8週間で審査結果が通知される。追加書類の提出を求められる場合もある。
ステップ6:In-Principle Approval(IPA)の受領
承認された場合、IPA(内定承認書)が発行される。IPAの有効期間内(通常6ヶ月)にシンガポールへ入国する必要がある。
ステップ7:EPカードの受け取り
シンガポール入国後、MOMに出頭してEPカード(ICチップ入り)を受け取る。生体情報(指紋など)の登録が必要。
ステップ8:却下された場合のアピール
却下通知から3ヶ月以内にMOMへ書面でアピール(異議申し立て)が可能。アピールは1回のみ。追加書類や状況説明を加えて再審査を依頼する。
EP更新の条件
EPの更新は、有効期限3ヶ月前から可能(遅くとも1ヶ月前までに申請推奨)。
- 雇用主がEP eServiceから更新申請を行う
- 更新時もCOMPASS評価が適用される
- 給与が最新の基準を満たしているか再確認が必要
- 同じ雇用主のもとで更新の場合、通常の審査より早く処理されるケースが多い
- 更新費用:SGD225(要公式確認)
家族帯同:Dependent’s Pass(DP)
EP保持者は一定条件を満たすことで、家族をシンガポールに帯同できる。
| パスの種類 | 対象者 | 条件 |
|---|---|---|
| Dependent’s Pass(DP) | 配偶者・21歳未満の未婚の子ども | EP保持者の月給がSGD6,000以上 |
| Long-Term Visit Pass(LTVP) | 内縁の配偶者・21歳以上の未婚の子・障がいのある子・親 | EP保持者の月給がSGD6,000以上(要個別審査) |
重要:DPを取得した配偶者がシンガポールで働く場合は、別途**Letter of Consent(LOC)**が必要。LOCはDP保持者が取得でき、雇用主がMOMに申請する。
永住権(PR)への道
EPは永住権(Permanent Residency)申請への足がかりになる。
- 申請可能時期:EP取得後、一般的に6ヶ月〜2年以上の在留実績が推奨される(早すぎると承認率が下がる傾向)
- PR申請の評価要素:年齢・学歴・職種・給与・在留年数・家族構成・シンガポールへの経済貢献度
- 申請費用:要公式確認(MOM公式で確認のこと)
- 審査期間:平均4〜6ヶ月(要公式確認)
- PRを取得すると、CPF(中央積立基金)への加入義務が発生し、给与の一部が積み立てられる
日本人のPR承認率は非公開だが、月給SGD8,000以上・在留3年以上・専門職・30代が有利とされる(非公式情報)。
日本の就労ビザとの比較
| 比較項目 | シンガポール EP | 日本:技術・人文知識・国際業務 |
|---|---|---|
| 対象者 | 専門職・管理職・技術者(外国人) | 理工系・人文系・語学系業務の外国人 |
| 最低給与基準 | SGD5,600/月(約49万円) | 日本人と同等以上(明確な下限なし) |
| 申請主体 | 雇用主(本人申請不可) | 雇用主または本人(代理申請可) |
| 有効期間 | 1〜5年(初回最長2年) | 1年・3年・5年 |
| ポイント制審査 | あり(COMPASS) | 高度人材ポイント制は別制度 |
| 更新の難易度 | 給与・ポイント基準を毎回満たす必要 | 比較的更新しやすい |
| 家族帯同 | 月給SGD6,000以上でDP取得可 | 扶養する家族がいれば家族滞在ビザ可 |
| 永住権への道 | EP→PR申請(6ヶ月〜) | 10年在留→永住申請(高度人材は1〜3年) |
| 審査透明性 | COMPASSで基準が明確 | 審査基準が非公開の部分が多い |
| 就労制限 | 原則:EPに記載の雇用主のみ | 在留資格の活動範囲内で複数社可 |
| 国家戦略 | 外国人採用に現地採用優先義務あり | 外国人採用に日本人優先義務なし |
日本人が注意すべきポイント・落とし穴
① 日系企業への転職・赴任でCOMPASSが不利になるケース
日系企業はシンガポール現地法人に日本人が集中しがちで、COMPASSのC3(企業内の国籍多様性)スコアが低くなりやすい。日本人の割合が30%を超える職場では、追加のボーナスポイント(スキル不足職種など)がないと40点に届かないケースがある。赴任前に雇用主にCOMPASSスコアの試算を依頼すること。
② 日本語の書類は必ず英語訳+公証が必要
日本の大学の卒業証明書・成績証明書は英語版の取得が最速の方法。翻訳が必要な場合は、MOMが認める翻訳者(Certified Translator)か、シンガポールの公証人(Notary Public)による認証が必要になる場合がある。
③ 申請は雇用主しかできない(原則)
日本の就労ビザと異なり、EPは本人が直接申請できない。内定が決まった後に雇用主が申請する流れのため、「先に渡航してから仕事を探す」ことはできない。ただし、起業家が自社(シンガポール法人)の代表として申請するケースは別途検討できる。
④ 給与水準は年齢連動で上昇する
MOMの給与基準はSGD5,600が最低ラインだが、40歳以上では同職種の市場中央値との比較でSGD10,000超が求められるケースもある。年齢が高いほどCOMPASSのC1(給与)スコアを確保しにくくなる点に注意。
⑤ IPAの有効期間(6ヶ月)を過ぎると再申請が必要
承認後にIPAを受け取っても、6ヶ月以内にシンガポール入国・EPカード取得を完了しなければ、IPAが無効になり再申請が必要になる。日本での退職手続き・引越しのスケジュールを逆算して計画すること。
⑥ 転職時はEPの切り替えが必要
転職・雇用主変更の場合、新しい雇用主が新規EP申請を行う必要がある。既存のEPは自動的に引き継がれない。転職先でのEP承認前に現職を辞めると、無就労状態でシンガポールを離れなければならないケースもある。
まとめ・次のアクション
ブロック1:自分でできるステップチェックリスト
- 1. SATで事前診断する:MOM公式Self-Assessment Tool(https://www.mom.gov.sg/eservices/employment-s-pass-self-assessment-tool)で給与・学歴・職種を入力し、EP承認可能性を確認する(無料・即日)
- 2. 英語版の卒業証明書・成績証明書を取り寄せる:日本の大学へ英語版証明書を申請(発行に1〜2週間かかる大学が多い。費用:各大学に確認)
- 3. COMPASSスコアを雇用主と試算する:入社予定企業のHRに対し、COMPASSシミュレーションをEP eServiceで実施するよう依頼する(雇用主のみアクセス可能)
- 4. MyCareersFutureの求人掲載状況を確認する:雇用主が14日間以上求人を掲載済みかを確認する(https://www.mycareersfuture.gov.sg/)
- 5. EP申請費用の負担者を雇用主と確認する:申請費SGD105・発行費SGD225(要公式確認)を雇用主が負担するか書面で確認する
- 6. 家族帯同を検討する場合、給与がSGD6,000以上かを確認する:Dependent’s Pass申請の条件を満たすか確認し、配偶者の就労意向があればLOCの手続きも事前に確認する
- 7. IPA取得後の入国スケジュールを確定する:IPA有効期間は6ヶ月。日本での退職・引越し・入国日を逆算してスケジュールを組む
- 8. PR申請のタイミングを中長期で計画する:EP取得後2年以上の在留を目安に、MOM公式PRページ(https://www.ica.gov.sg/)でPR申請条件を確認する
ブロック2:自分では調べにくい・状況によって異なること
以下は、個人の状況・企業の状況によって答えが異なるため、一般情報では判断が難しい。
- 日系企業のCOMPASSスコアが現在何点か:企業の外国人比率・国籍構成によってC3スコアが変わり、申請前に内部情報として把握しにくい
- 自社でEPを申請するケース(起業家・駐在員の自己申請):シンガポール法人を設立し、自分が唯一の取締役・社員として申請する場合の審査の実態
- 40代以上でEPを取得するための現実的な給与・職種の条件:年齢連動の給与基準の詳細と、どの職種でボーナスポイントが加算されるか
- 一度却下された後のアピール成功率と、追加すべき書類の実例:MOMのアピール審査で有効な補強材料とその準備方法
- 日本の外資系→シンガポール本社への社内異動(Intra-Company Transfer)でのEPとの違い:EPと他のパス(EntrePass等)のどちらが適切かの判断
→ ASEAN-JP代理調査サービス($5/件)で個別に調べます。調査を依頼する
ブロック3:次に読むべき関連記事テーマ
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