この記事のポイント
- フィリピンの遺産税は一律6%(TRAIN法改正後、2018年以降)
- 外国人がフィリピンに不動産を所有している場合、フィリピンの相続法が適用される
- 遺産税の申告期限は被相続人の死亡から1年以内
本記事はBIR(内国歳入庁)およびフィリピン民法の公式情報(2026年3月確認)に基づいています。
フィリピンの相続制度の概要
遺産税(Estate Tax)
TRAIN法(RA 10963)により、2018年1月1日以降の相続については、遺産総額にかかわらず**一律6%**の遺産税が課されます。それ以前は5%〜20%の累進課税でした。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 税率 | 一律6% |
| 課税対象(居住者) | 全世界の遺産 |
| 課税対象(非居住者) | フィリピン国内の遺産のみ |
| 基礎控除 | 5,000,000 PHP(約15,071,000円) |
| 申告期限 | 死亡から1年以内(延長可能) |
控除項目
| 控除項目 | 金額 |
|---|---|
| 標準控除 | 5,000,000 PHP(約15,071,000円) |
| 家族住居控除 | 10,000,000 PHP(約30,142,000円) (上限) |
| 配偶者への遺贈 | 婚姻財産の50%(community property) |
| 葬儀費用 | 実費(上限200,000 PHP(約602,840円) ) |
| 債務 | 証明可能な金額 |
外国人への適用
フィリピンに居住する外国人(税務居住者)が死亡した場合、全世界の遺産にフィリピンの遺産税が課されます。非居住外国人の場合、フィリピン国内に所在する遺産のみが課税対象です。
相続の種類
遺言相続(Testamentary Succession)
遺言書に基づく相続です。フィリピン法では以下の2種類の遺言書が認められています。
- 公正証書遺言(Notarial Will) — 公証人の前で3人以上の証人とともに作成
- 自筆証書遺言(Holographic Will) — 遺言者が全文を自筆で作成、日付・署名入り
法定相続(Intestate Succession)
遺言書がない場合、フィリピン民法に基づく法定相続が適用されます。
| 相続人 | 相続割合 |
|---|---|
| 配偶者+子供 | 子供と配偶者が均等に分割(Legitimate Children) |
| 配偶者のみ | 全額 |
| 子供のみ | 均等に分割 |
| 両親(子供なし) | 配偶者と均等に分割 |
遺留分(Legitime)
フィリピン法では遺留分制度があり、遺言によっても排除できない法定相続人の取り分が保障されています。
| 法定相続人 | 遺留分 |
|---|---|
| Legitimate Children | 遺産の50% |
| 配偶者 | 子供1人の相続分と同等 |
| 両親(子供なし) | 遺産の50% |
相続手続きの流れ
Step 1: 死亡届の提出
フィリピンのLocal Civil Registryに死亡届を提出します(30日以内)。
Step 2: 遺産の確定
被相続人のフィリピン国内外の全資産を把握し、遺産目録を作成します。
Step 3: 遺産税の申告・納付
BIRに遺産税申告書(BIR Form 1801)を提出し、遺産税を納付します。申告期限は死亡から1年以内です。
Step 4: CAR(Certificate Authorizing Registration)の取得
遺産税の完納後、BIRからCARが発行されます。不動産の名義変更にはこのCARが必要です。
Step 5: 不動産の名義変更
Register of DeedsでCAR、遺産分割協議書(Extra-Judicial Settlement)等を提出し、名義変更を行います。
外国人特有の課題
準拠法の問題
フィリピン民法では、相続は被相続人の本国法に従うとされています(renvoi原則)。日本人がフィリピンで死亡した場合、相続の実体法は日本法が適用される可能性がありますが、フィリピン所在の不動産についてはフィリピン法が適用される場合があります。
コンドミニアムの相続
外国人が所有するフィリピンのコンドミニアムは、相続人が外国人であっても相続可能です。ただし、1プロジェクトの外国人所有比率(40%上限)の制限は維持されます。
SRRV預金の取り扱い
PRA(フィリピン退職庁)に預けたSRRV預金は、ビザ保有者の死亡時に相続人に返還されます。PRAへの届出と、BIRでの遺産税処理が必要です。
日比間の二重課税
日本の相続税とフィリピンの遺産税の二重課税が生じる場合、日本の外国税額控除(相続税法上の規定)を適用できます。ただし、日比間に相続税に関する租税条約はないため、手続きが複雑になることがあります。
日本人が知っておくべき注意点
遺言書の作成
フィリピンに資産を持つ日本人は、日本語の遺言書に加えて、フィリピンの法的要件を満たす英文遺言書を作成しておくことを強く推奨します。遺言書がない場合、相続手続きに数年を要することがあります。
相続放棄
フィリピン法では相続放棄(Repudiation of Inheritance)は認められていますが、書面で行う必要があり、第三者への権利侵害とならない範囲に限られます。
遺産税の分割払い
遺産税は最大2年間の分割払いが認められています(BIRへの事前申請が必要)。不動産が主な遺産で現金が不足する場合に活用できます。
よくある質問(FAQ)
Q1: 外国人がフィリピンで死亡した場合、どの国の法律が適用されますか?
フィリピン民法では被相続人の本国法が適用されますが、フィリピン所在の不動産についてはフィリピン法の制限(外国人の土地所有禁止等)が優先されます。実務上は両国の弁護士の協力が必要です。
Q2: 遺産税の申告を遅延した場合のペナルティは?
申告遅延の場合、未納税額の25%の追徴課税と、月2%の延滞利息(最大3年間)が課されます。
Q3: 日本の相続税との調整はどうなりますか?
フィリピンで支払った遺産税は、日本の相続税申告時に外国税額控除として差し引くことができます。ただし、控除額には上限があります。
Q4: 生前贈与でフィリピンの資産を移転できますか?
フィリピンでの生前贈与には贈与税(Donor’s Tax)が課されます。税率は一律6%(TRAIN法改正後)で、年間250,000 PHP(約753,550円) の非課税枠があります。
Q5: 複数の相続人がいる場合、コンドミニアムはどう分割しますか?
Extra-Judicial Settlement(裁判外遺産分割協議書)を作成し、相続人間で合意します。実物分割が困難な場合は、売却して代金を分配する方法が一般的です。
まとめ:自分でできること vs 専門家に相談すべきこと
自分でできること:
- BIR公式サイトでの遺産税率・控除項目の確認
- フィリピン国内資産の一覧作成
- 日本の遺言書への「フィリピン資産」の記載追加
専門家に相談すべきこと:
- フィリピン法に準拠した遺言書の作成
- 日比間の相続税の二重課税回避策
- SRRV預金・コンドミニアムの相続手続き
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