この記事のポイント

海外法人設立を検討する日本人起業家・投資家に向けて、日本(株式会社・合同会社)、マレーシア(Sdn Bhd)、シンガポール(Pte Ltd)、ラブアン法人の設立コスト・税率・維持費を公式データに基づき完全比較します。年商5,000万円のコンサルタントを想定した具体的なケーススタディと、「日本法人+ラブアン法人」二重構造のシミュレーションも掲載します。

出典は日本法務省、マレーシアSSM、シンガポールACRA、ラブアンFSAの公式データ(2025〜2026年)に基づきます。


4つの法人形態の概要

日本人が海外で法人設立する場合、主要な選択肢は以下の4つです。それぞれ設立コスト、税率、維持費、外資規制が大きく異なります。

日本の法人(株式会社・合同会社) は社会的信用が最も高いですが、実効税率33.6%と法人税負担が大きいのが特徴です。合同会社は設立費用が株式会社の約3分の1で、決算公告義務もありません。

マレーシアのSdn Bhd は設立コストが約12万円からと安価で、法人税率は24%(中小企業の最初RM60万は17%)。英語で全業務を行え、東南アジアへのビジネス展開拠点として最も利用されています。ただし、取締役1名以上がマレーシア居住者である必要があります。

シンガポールのPte Ltd は法人税17%に加え、キャピタルゲイン税・配当税・相続税がいずれもゼロ。スタートアップ向けの税額免除制度もあり、国際的な信用度は最高クラスです。ただし、年間維持費が約53万円とASEAN内では高めです。

ラブアン法人 はマレーシア・ラブアン島の国際ビジネス会社(IBC)で、取引活動法人の税率は純益の3%(またはMYR20,000=約80万円の定額税のいずれか低い方)。資産保有会社は実質ゼロ税率です。


設立コスト完全比較

日本:株式会社(KK)

日本法務省の登録免許税に基づく設立費用です。

初期設立費用として、登録免許税15万円、定款認証費用5万円、司法書士報酬約10万円で、合計約30万円が最低限必要です。年間維持費は住民税均等割7万円、会計・税務顧問料50万円程度で、合計約57万円からとなります。法人税の実効税率は33.6%(中小企業で課税所得800万円以下は実効24.86%)です。

外国人が100%所有可能ですが、日本に登記住所が必要です。社会的信用度が高く、株式発行による資金調達や将来の上場も可能です。

日本:合同会社(GK / LLC)

合同会社は登録免許税6万円、司法書士報酬約5万円で、合計約11万円で設立可能です。定款認証が不要なため、株式会社より手続きが簡素です。年間維持費は住民税均等割7万円、会計顧問料30万円程度で合計約37万円から。税率は株式会社と同じ実効33.6%です。

設立コストを抑えたい個人事業主やスモールビジネスに適していますが、社会的信用度は株式会社よりやや低く、投資家からの資金調達には不向きです。

マレーシア:Sdn Bhd(センディリアン・ブルハド)

マレーシアSSMへの登録料RM1,000(約4万円)、エージェント費用RM2,000(約8万円)で、合計約12万円からの設立が可能です。年間維持費はSSM年間登録料RM200(約8,000円)、会計費用RM5,000(約20万円)、カンパニーセクレタリーRM2,400(約9.6万円)で合計約32万円です。

法人税率は24%で、中小企業の最初RM60万の課税所得には17%の優遇税率が適用されます。キャピタルゲイン税は原則ゼロ、配当の源泉徴収税もゼロです。外国人100%所有可能ですが、取締役1名以上がマレーシア居住者(市民権またはPR保有者)であることが条件です。最低資本金はRM1(約40円)からで、事実上の最低資本金制限はありません。

シンガポール:Pte Ltd(プライベート・リミテッド)

シンガポールACRAへの登録料SGD315(約3.9万円)、エージェント費用SGD500(約6.2万円)で、合計約10.1万円から設立可能です。年間維持費はACRA年間料SGD60(約7,440円)、会計費用SGD3,000(約37.2万円)、カンパニーセクレタリーSGD1,200(約14.9万円)で合計約52.8万円です。

法人税は17%ですが、スタートアップ向けに最初3年間は大幅な税額免除があり、最初S$10万の課税所得は75%免除、次のS$10万は50%免除されます。これにより、スタートアップの実効税率は約5%まで下がります。キャピタルゲイン税、配当税、相続税がいずれもゼロという点が最大の魅力です。

取締役1名以上がシンガポール居住者(国籍・PR・Employment Pass保有者)であることが必要です。

ラブアン法人(Labuan Company)

ラブアンFSAへの登録費用USD500(約7.9万円)、信託会社エージェント費用USD2,000(約31.6万円)で、合計約39.5万円の初期費用が必要です。エージェント(信託会社)の利用が法的に義務付けられているため、他の法人形態より設立コストが高くなります。

年間維持費はライセンス料MYR5,930(約23.7万円)、信託会社費用USD2,000(約31.6万円)、会計費用USD1,500(約23.7万円)で、合計約79万円です。

法人税は取引活動法人が純益の3%(またはMYR20,000=約80万円の定額税のいずれか低い方)。資産保有法人(持株会社等)は実質ゼロ税率です。配当の源泉徴収税もゼロ。100%外国人所有が可能で、現地居住取締役の要件もありません。

ただし、マレーシア国内向けのビジネスには使用できず、国際取引・投資保有・知的財産管理・コンサルティングなどに限定されます。


法人設立コスト・税率 比較一覧

項目 日本 合同会社 日本 株式会社 マレーシア Sdn Bhd シンガポール Pte Ltd ラブアン法人
設立費用 約11万円 約30万円 約12万円 約10.1万円 約39.5万円
年間維持費 約37万円 約57万円 約32万円 約52.8万円 約79万円
法人税率 33.6% 33.6% 24%(SME: 17%) 17%(実質5%〜) 3%(定額税あり)
キャピタルゲイン税 33.6% 33.6% 0% 0% 0%
配当源泉徴収税 20% 20% 0% 0% 0%
外資100%可 ◯(条件付き)
現地居住取締役 不要 不要 必要 必要 不要
設立難易度 ★★☆ ★★★ ★★☆ ★★☆ ★★★

出典: 日本法務省(2024年登録免許税)、マレーシアSSM(2025年)、シンガポールACRA(2025年)、ラブアンFSA(2025年)


ケーススタディ:年商5,000万円のコンサルタント

ここからは、年商5,000万円のITコンサルタントが法人形態によってどれだけ税負担が変わるかをシミュレーションします。

日本法人のみの場合

年商5,000万円のうち、法人税(実効33.6%)で約1,680万円、役員報酬に対する個人所得税で約1,400万円、社会保険料で約134万円、合計約3,214万円の税・社会保険負担が発生します。手取りは約1,786万円で、実効負担率は約64.3%です。

ラブアン法人+マレーシア居住の場合

マレーシアに税務居住を移した場合、ラブアン法人税(3%)で約150万円、マレーシアの個人所得税で約300万円(海外源泉所得の送金分に課税)、社会保険は適用外のため0円、合計約450万円の負担となります。手取りは約4,550万円で、実効負担率は約9.0%です。

年間約2,764万円の差額が生じます。

⚠️ 重要な注意事項: この試算は概算であり、実際の節税効果は税務構造・居住地・事業形態により大きく異なります。また、以下のリスクを十分に理解した上で専門家に相談してください。


日本法人+ラブアン法人「二重構造」のリスク

ラブアン法人の低税率は非常に魅力的ですが、日本在住のまま利用しようとすると深刻なリスクがあります。

タックスヘイブン対策税制(CFC税制)の適用リスク: ラブアン法人の税率3%は、日本のCFC税制が適用される20%未満の基準に該当します。日本居住者がラブアン法人を50%超保有する場合、ラブアン法人の利益が日本の個人所得として合算課税される可能性があります。詳しくはタックスヘイブン対策税制(CFC)完全ガイドをご覧ください。

日本の税務居住者離脱が前提: ラブアン法人の税メリットを適法に享受するには、日本の住民票除票・出国届を提出し、マレーシアMM2Hまたはその他の長期滞在ビザで税務居住を移す必要があります。日本人の海外移住手続きガイドで詳しく解説しています。

経済的実態(サブスタンス)要件: ラブアン法人にはOECDのBEPS対応として、実質的な経済活動が求められます。ペーパーカンパニーと判定されると税制優遇が取り消されるリスクがあります。

マレーシアの海外所得課税変更(2022年〜): マレーシアは2022年から海外源泉所得のマレーシアへの送金分を課税対象としました。これにより、以前はゼロだった税負担が発生する場合があります。

国外転出税(出国税): 1億円以上の金融資産を保有する方が日本から出国する場合、含み益に対して15.315%の所得税が課されます。


ペルソナ別おすすめ法人形態

起業家・フリーランス(年商1,000万〜3,000万円)

日本国内でビジネスを続けるなら 日本の合同会社 が設立コスト・維持費とも最も合理的です。海外展開を視野に入れるなら マレーシアSdn Bhd を検討してください。設立費用12万円からと手頃で、東南アジアの拠点として最適です。

スタートアップ(資金調達を予定)

シンガポールPte Ltd が最有力です。法人税17%に加え、スタートアップ税額免除で実効5%程度に。キャピタルゲイン税・配当税ゼロの環境は、将来のEXITを見据えた投資家にとって最も魅力的です。日本国内での信用も必要なら 日本の株式会社 との併用も検討します。

高資産個人・投資家(資産運用目的)

ラブアン法人(資産保有会社)が最も税効率が高く、持株会社であれば実質税率ゼロです。ただし、マレーシアへの税務居住移転が前提であり、CFC税制のリスクを税理士と十分に検討する必要があります。マレーシアMM2H完全ガイドも合わせてご参照ください。

デジタルノマド(場所にとらわれない働き方)

まず税務居住をどこに置くかを決めてから法人形態を選びます。マレーシアのDE Rantauビザでマレーシアに居住し、Sdn Bhd または ラブアン法人 を設立するのが税務上有利です。


日本人が知っておくべき注意点

現地居住取締役の確保: マレーシアSdn BhdとシンガポールPte Ltdは、現地居住取締役が法的に必要です。ノミニーディレクター(名義取締役)サービスを利用できますが、費用と信頼性の確認が重要です。

銀行口座開設の難化: 近年、マネーロンダリング対策(AML/KYC)の強化により、海外法人の銀行口座開設が難しくなっています。特にシンガポールでは、実質的なビジネスプレゼンスがないと口座開設を拒否されるケースが増えています。

日本との租税条約: マレーシアとシンガポールはいずれも日本との租税条約があり、二重課税の回避が可能です。日本・マレーシア租税条約ガイドで詳しく解説しています。

為替リスク: 本記事の費用は2025〜2026年の為替レート(1MYR=40円、1SGD=124円、1USD=158円)で計算しています。為替変動により実際の費用は変わります。


よくある質問(FAQ)

Q1: 日本に住みながら海外法人だけ設立するメリットはありますか?

日本居住者が海外法人を設立すること自体は合法ですが、CFC税制(タックスヘイブン対策税制)により、低税率国の法人利益が日本で合算課税される場合があります。特にラブアン法人(税率3%)は要注意です。税務メリットを得るには税務居住の移転が前提となるケースが多いです。

Q2: 設立費用が最も安いのはどの法人形態ですか?

シンガポールPte Ltd(約10.1万円〜)が最安ですが、年間維持費は約52.8万円と高め。設立費用と維持費を総合するとマレーシアSdn Bhd(設立12万円+維持32万円)がバランス良好です。

Q3: 現地居住取締役を確保する方法は?

マレーシア・シンガポールともにノミニーディレクターサービスがあり、年間RM2,000〜5,000(約8〜20万円)/ SGD1,500〜3,000(約18.6〜37.2万円)程度で利用できます。信頼できるエージェントの選定が重要です。

Q4: ラブアン法人は誰に向いていますか?

年商3,000万円以上の国際取引が主体で、マレーシアへの税務居住移転を前提にできる方に適しています。年間維持費が約79万円かかるため、一定以上の売上がないと費用対効果が見合いません。

Q5: 法人設立後に税務居住を移す場合の手続きは?

日本の住民票除票・出国届を提出し、移転先国のビザ(MM2Hなど)を取得します。日本側では出国税(金融資産1億円以上の場合)の確認、年金・健康保険の手続きも必要です。詳細は海外移住手続きガイドをご覧ください。

Q6: 複数の国で法人を持つことはできますか?

可能です。実際に「日本の株式会社+シンガポールPte Ltd」「マレーシアSdn Bhd+ラブアン法人」のような組み合わせを利用する日本人も多いです。ただし、各国の税務申告義務と移転価格税制に注意が必要です。


まとめ:自分でできること vs 専門家に相談すべきこと

自分でできること

情報収集と比較検討は本記事と各国の公式サイトで可能です。法人形態の選定、大まかな費用感の把握、必要書類のリストアップまでは自力で進められます。マレーシアSSM・シンガポールACRAのオンラインポータルでは設立手続きの概要も確認できます。

専門家に相談すべきこと

実際の法人設立手続き(特に海外法人)、税務居住の移転計画、CFC税制のリスク評価、国際的な税務ストラクチャーの設計は、海外税務に精通した税理士・会計士への相談を強くお勧めします。特にラブアン法人の利用やマルチ法人構造は、専門家なしでは税務リスクを正確に評価できません。

まず確認すべきこと

現在の事業規模と将来計画、税務居住を移す意思の有無、国際取引の有無をまず整理してください。その上で、本記事の比較表をもとに候補を絞り、専門家に具体的な相談をするのが最も効率的です。


本記事の情報は2025〜2026年の公式データに基づいていますが、税率・制度は変更される場合があります。重要な意思決定の前に、必ず最新の公式情報を確認し、専門家にご相談ください。

最終確認日: 2026年3月12日

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※ この記事の情報は2026年3月12日時点のものです。最新情報は各国政府の公式サイトをご確認ください。当サイトは情報提供を目的としており、法的助言を行うものではありません。